ショート・カッツ

カリフォルニアのある町。車に当たった坊やが、心配する運転者を無視して帰宅すると、その家は有名アナウンサー宅で、信頼できる医者に治療してもらうことになったが、母は心配で、ケーキ屋からの電話に辛く当たってしまうと、そのケーキ屋はイタズラ電話を繰り返すが、いっぽう坊やの治療をする医者はコンサートで出会った夫婦とバーベキューパーティをする約束をしてしまい、その夫婦の夫が仲間と釣りに行くと死体が川に浮かんだりしていて、なんだかんだで大地震とともに終幕。


 
ロバート・アルトマン監督の「ショート・カッツ」を観ました。
 
とにかく22人もの登場人物が出てきて、複雑に交錯している群像劇のストーリーがややこしい
 
冒頭の殺虫剤がばらまかれるシーンは、その後の登場人物たちの日常を狂わせていることを暗示している。
一見普通に暮らしている人々だが、それぞれの人生は繋がっていて、どこかで歯車が食い違ったような、
ずれた生活に引き込まれていく・・・。そして、何の前触れもなく登場人物が死んでいく・・・
 
性的な欲望についての描写も頻繁に登場し、生物としての抑えられない感情を表している。
 
映像は明るい色調がうまく取り入れられていて、作品に一貫して漂う狂気と相まって忘れられない印象を残す。
 
ここでは何の違和感もなく「生」と「死」の世界が紙一重に存在していることを描いている。
生きているのは決して当たり前ではなく、皆同じように確実に死んでいくのだというメッセージを強烈に感じる。
 
さっきまで生きていた人が、当たり前のようにぶっ倒れたり、血を流して死んでいったりするので、人によっては
吐き気を催したり、観た後に気分が悪くなるかもしれない。しかしこれはまぎれもない現実なのだ。
 
何の変哲もない「日常」と、どこかが食い違ったような「狂気」が静かに、リアルに描かれている。
 
そこにこの作品が持つうすら寒さを覚えるが、人間や社会の醜い部分なども全部含めて、うまく描かれているし、
それでも観た後にはなぜか、自分が生きるこの世界や人々が「美しい」と思える。
 
それは狂気にまみれた人間の本質の裏の部分まで、この映画が克明に描ききっているからなのだろう。