月の役割

今から何万年も昔。人類の祖先は夜空に浮かぶ月を見て思った。
それまでは皆、地上での生活に精一杯であり、天界で起こる出来事には無関心であった。
地上にある世界がすべてであり、空に浮かんでいるあれが何なのか考えることは無意味だった。

しかし、その祖先は夜空に浮かぶ月を見て初めて“美しい”と思ったのだ。
何万年も昔の人類の祖先にそんな哲学的な感情があったのかどうかは定かではない。
だが何もない夜を照らしているあれについて、初めて興味を向け始めたことは確かである。

それから月日は流れ、何万年かが経った。
人類は夜空の月を見て観察することで天文学を発達させた。月の満ち欠けを観察することで暦を作り、
一年の月、週、日のバイオリズムを知った。それは農業や、統計学や、科学の分野までにも役立ち、
人類の発展に大きな役割を果たした。やがて人類は天体望遠鏡を発明し、宇宙の様々な神秘について
多くの科学者が解き明かし始めた。そして遂に宇宙ロケットを開発し、月へ行くことができた。
月の鉱物を持ち帰り、多くのことが分かった。月に宇宙基地を作り、宇宙開発は大きな進歩を遂げた。
これが、太陽から4番目の惑星である火星では遠すぎたし、ここまで宇宙開発は進歩しなかったであ
ろう。

それからまた何百年かが経った。
人類の宇宙開発はさらに進歩を遂げ、地球の人口の半分は火星に住み始めた。地球に住んでいる人も
日常的に宇宙ロケットで火星へ出かけるようになった。このとき、宇宙ロケットの動力だけでは、時間
も費用もかかり、とてもではないが日常的に火星へ行くことは難しかっただろう。
しかし、宇宙ロケットは月の重力を利用して“投石(スリング・ショット)効果”で加速し、軌道に乗
ることで、速く、費用をかけずに火星へ行くことができた。