小説

ENDLESS SUMMER

終わらない夏の終わりは、ボールの表面に塗られたシロップが溶けるのを待っていた。 宇宙空間に浸透すると白と黒の淵を彷徨いながら、再びボールの表面に溶け出す夏を見ていた。 海の底で眠っている命が蘇るように、輪廻転生を繰り返し、永遠に終わることは…

ELEPHANT

目が覚めると、頭が象で体は人間の格好のまま通りを歩いていると、人々が動物を見ていた。 やけに頭が重く、ちっとも前へ進めないと思ったら、長い鼻を踏みつけて前のめりに倒れた。 道端でそれを見ていた動物が笑ったので、堪忍袋の緒が切れて顔を真っ赤に…

FLOWER

花瓶にストローの柔らかく結んだリボンがやじろべえのようなバランス感覚で生かされていた。 壊れやすいリボンは一度殺されながら、深遠から届く恩恵に出会い、時間の上に咲いていた。 しかし、宇宙からの電磁波は細胞を殺しながら生かし、やじろべえをロー…

PYRAMID

歩きながら、頭上の斜め45度にある星屑を想像して、四角錐の頂点を目指していた。 足を前に踏み出すごとに、時計の秒針が刻まれ、星屑のジャイルが動いているのだった。 男は世界を見くびったことなどなかったが、球体の歯車を動かしていることに確信があ…

DREAM

ベッドに飛び込み、2つのシャッターを閉じると、銀幕の残像を見ている世界があった。 まやかしの光が視界から消えると、二律背反の陰の側面が本質を照らし始めた。 意識の裏側で、操り人形の糸が切れて、脱脂綿に様々な色のインクが滲んだ。 精神世界に浸透…

MIRROR

鏡の向こうの世界に誰かが立ってこっちを見ている。 自分はどこかで出会ったような気がするが、しかしそこにいる自分は思い出せないのだ。 静寂の世界に鼓動が再びならないのは、2つ並んだビー玉がシークエンスを釘付けにしているからだった。 ただ意識だけ…

MIND BOX

朝起きると手足が増えていたので嬉しくて、起き上がりこぼしが垂直に立って踊っていた。 ジャイルが動き出してボールの表面が見えると、バネ仕掛けでドアから人間ロケットが飛び出した。 通りに投げ飛ばされると、心が4つに増えていて、頭は2つになってい…

LIFE IN HOLE

夢の世界の高原を歩いていると、丘の上の緑の絨毯の場所に穴を見つけた。 ちょうどUFOの着陸地点だったので、UFOが空けた穴だろうと思ったが、それにしては大きさが合わないし、 淵がくっきりしていて、覗き込むと底は永遠に地下にあった。 穴の大きさは、鼻…

IN SQUARE WINDOW

丸い窓が世界を照らす真夜中、自分は薄暗い監獄で四角い窓を眺めていた。 四角い窓の中では、誰かの笑い声と誰かの叫び声が聞こえ、両者は遊びながら戦っている様子だった。 しかし、自分は意識を失っていて、もう片方の正常でないほうの意識は、昨夜の四角…

THE FOUR WALL

人間という生き物は、少なくとも見えない壁をひとつは建てているものである。 ちょっと内向的な人なら二つ、更に内向的な人であれば三つの壁を建てている。 もっと内向的で、ときには激しく外交的になる人であれば、四つの壁を建てた少数派である。 そういう…

STALKER

ある日、通りを歩いていると、前方に容姿の整ったといわれる異性が歩いていた。 追いかけて、正体を突き止めようと思ったが、あれは夢かもしれないという忠告が引きとめた。 その証拠に、前方の異性は振り返ることはなかったし、いくら歩いても歳をとること…

テクノ耳

昨日、ラジオから流れていたテクノミュージックが耳に入ってきて、耳かきで取ろうとしたが取れなかった。 どうやら耳の奥まで入り込んだらしく、耳かきが届かない様子である。 テクノミュージックは鼓膜を通過すると、脳を侵し始め、もう外科手術でも永遠に…

生産者

男が瓦礫の上を歩いていた。 割れた瓦、小石、コンクリートの破片などが無数にある瓦礫の砂漠を、行くあてもなく歩き続けていた。 行けども行けども瓦礫ばかりで、灰色の大地が永遠に広がっていた。 何時間歩いただろうか。 のどは渇き、空腹で、体はボロボ…

多感

6歳になるユウタはごく普通の小学生だった。 しかし周りの大人たちはユウタを変わった子どもだと思っていた。 学校からの帰り道、ユウタは赤信号が変わるのを待っていた。 目の前の横断歩道を色々な車がすごいスピードで通過していく。その光景を見ながら、…

エロマンガ島

1980年代、バブルの流れで大量のエロマンガやエロビデオが作られ販売されるようになり、それは ビジネスになった。世の中の男たちはそれらを大量に買い漁り、見て心を躍らせた。 それとともに、大量のエロマンガやエロビデオが捨てられることが問題になった…

宇宙のi-Pod(続編)

オンタは宇宙船の中にいた。 これといって目につくものはなく、円形の白い床と壁だけの何もない空間だった。 オンタはまだ耳にイヤホンをつけ、i-Podを聴いていた。曲の残り時間は少なかった。 ふとオンタは壁際へ歩いていき、白い壁に手をかざした。すると…

月の役割

今から何万年も昔。人類の祖先は夜空に浮かぶ月を見て思った。 それまでは皆、地上での生活に精一杯であり、天界で起こる出来事には無関心であった。 地上にある世界がすべてであり、空に浮かんでいるあれが何なのか考えることは無意味だった。 しかし、その…

キャベツ畑

ミサは夢の中で、キャベツ畑にいた。 空はどんよりと曇っていて、墨汁に水を混ぜたような雲が浮かんでいた。 突然、後ろから声をかけられた。振り返ると、おじさんが立っていた。 「あんた、バイトかい。じゃあ手伝って」 そう言って包丁を渡してきた。ミサ…

宇宙のi-Pod

学校からの帰り道、オンタはi-Podで音楽を聴きながら歩いていた。 オンタは音楽が大好きな、ごく普通の高校生だった。 ふと見ると、道路わきの歩道に何かが落ちていた。 近づいてみるとそれはi-Podだった。拾って電源を入れると、液晶画面が表示された。 「…

A君とB君

高校生のA君は、ごく平凡なスクールライフを送っていた。 友達も恋人もたくさんいた。いつも学校が終わると、街でたむろして遊んだ。 友達と遊ぶことが生きがいだった。勉強することが生きがいだった。 毎日何も考えずに、楽しく過ごした。 A君は大人になっ…

ある日のラジオ

監獄のように暗い部屋。ベッドの上で少年が寝ていた。 中学生になってからいじめを受けるようになり、ひきこもりになったのだ。 少年の名はミチオ。 毎日同じ日々の繰り返し。天井を見つめて、いつも自殺することばかり考えていた。 そして明日、誰も知らな…

CDコレクター

小説を載せようと思ったら「記事に登録できない文字列が~」と出てきたので、こちらに載せました↓ CDコレクター

メタボ主婦

ある昼下がり。中年女性が寝転びながらワイドショーを見ていた。 女性の名はシズコ。亭主は会社へ行き、中学生の子ども達は学校へ行っている。 一人で自由に過ごせる昼下がりをのんびり過ごしていた。 ふとテレビの声が耳に入ってきた。 「次は、昨今話題に…

音楽マシン

ある音楽家の少年がいた。 幼少期からピアノを習っていて、早くからその才能が認められ、数々のコンクールで優勝した。 物心つく前から、音楽家である両親に厳しいレッスンを受けていて遊ぶことも許されなかった。 少年には幼少期の思い出といえばピアノのレ…

作曲マシン

山奥の研究所。博士がなにかを作っていた。 それは、自動作曲マシンであった。 この博士、音楽大学を出てミュージシャンを志したが、泣かず飛ばず。 結局、夢をあきらめて発明家になることに決めた。 そして機械に自動で曲を作らせる「作曲マシン」を発明し…

現代のいじめ

ある小学校。 教室の片隅に、暗い顔の少年がいた。 実はこの少年、最近クラスのグループからいじめを受けていた。 手口は巧妙で、先生のいるところでは仲良しのふりをしているが、誰もいない階段の踊り場で後ろ から背中を押したり、廊下でわざとぶつかった…

出会い系

インターネットの出会い系サイトでのやり取り。 「僕は一流企業で働いています」 「えっ!あの有名な一流企業で?」 「はい。女運にも恵まれて・・・今は、彼女はいないけど」 「じゃあ今度会いませんか?」 そこで話は途切れた。 実は男は無職で、35歳に…

報道と政治家

ある政治家が、総理大臣になった。 「私もやっとスタートラインに立つことができました。これからこの国を変えるために、国民の 生活を第一に考えて、身を粉にして頑張っていきたいと思います」 テレビの就任演説でA総理はそう述べた。 国民の歓声。誰もがこ…

地上あなろぐ

都会のあるアパートの一室。ソファーの上で、男が寝ていた。 年齢は、20歳くらい。何もすることがない。毎日、御飯を食べて、テレビを見て、寝る。 することといえばそれくらいで、ずっと同じ毎日の繰り返し・・・。 友達はいない。恋人もいない。両親は、…