最近読んだ本

レイ・ブラッドベリ 「太陽の金の林檎」「火星年代記」「華氏451度」
ブラッドベリの小説はどこかシュールで、ファンタジックで、時空を超越したような
ノスタルジックで不思議な世界があって面白いです
「太陽の金の林檎」は、作品の中から断片的に収録されている短編集ですが、
物語の各章だけで充分完結していて伝わるものがあると思います。いくつかの
短編を読んでいて、そのストーリーを知らないのに、万物無常な世界観とか、
宇宙を支配する法則みたいなものが巧みな描写で表現されていて、読んで鳥肌
が立ちました火星年代記」はおそらく彼の代表作で、人類が火星に移住する
という今ではありがちなストーリーですが、当時は衝撃的な作品だったと思う。
こちらもストーリーや人間ドラマが描かれていながらも、やはり繁栄と滅亡を繰り
返す運命の無常さとかがうまく表現されているのに度肝を抜かれた。「華氏451」
は、物が燃える温度がタイトルになっていて、法律で書籍を禁じ、あらゆる出版物
を燃やしてしまう職業についている主人公が、ある時、書籍の重要性に気付き、
本を読んで知識欲を満たそうと陰で策を練るという話。物語のなかの話ではなく
これは現実に起こっている内容だなと感じる。民衆の本離れは、政府の独裁を
助長し、国家を反乱に貶めるに違いない。
 
・R・C・ウィルスン 「時間封鎖」
これは上下巻に分かれてて長いけど、読み進めると早い。地球がある日突然、
時間がゆっくり進むような膜に覆われるという話。それは人知を超えた第3者に
よる仕業だと憶測をたて、人類はあらゆる手を尽くして外界宇宙との交信を図り
滅亡から抜け出そうとする。主人公の3人は幼馴染で、科学者になり策を練るもの
、道に迷って宗教に入るものもいる。病と闘いながらも、謎を解明し、遂に人知を
超えた存在について突き止めるが・・・。異なった時間軸によるストーリーが挿入
されていたり、やはり火星が登場することもSFじみていて面白い。
 
アーサー・C・クラーク 「時の眼」「太陽の盾」
アーサー・C・クラークと、スティーブン・バクスターによる共著。「2001年宇宙の旅」
を違った視点から語り、その謎に満ちた哲学的なテーマについて、全く異なる視点
ら描かれている。というと、ちょっと大袈裟かもしれないが、あの名作と並べて
期待して読むと肩透かしを食らうかも知れません。まあ「2001年宇宙の旅」は、
膨大なアイデアと、相当な思考錯誤の末に生まれた一世一代の名作であり、続編
の小説も、映画の「2010年」も、あの名作と並べて語ることは出来ないのだ。
「時の眼」「太陽の盾」も、普通のSFとして楽しんで読めば充分面白い作品です。
てか、この話も近い将来起こり得る「太陽嵐」についての内容を含んでいました。
もしこれが起こったら、とても物語の中の話として済ませるわけにはいかないです。
 
奥田英朗 「最悪」
奥田英朗の傑作群像劇犯罪小説登場人物の4人は、皆、現代社会に生きる
悩みを抱えた人たちで、文字通り何もいいことは起こらなくて「最悪」な展開ばかり
が続く・・・。そのままどうなるのかというと、中盤から徐々に話が交錯し始めて、
あるとき、物語は歯車のように噛みあって終盤へ転がり込む・・・。普通なら暗く重い
主題を扱っているため勢いを失い、壊れた小説になりかねないところを、軽い
ユーモアも交えながら、実に面白く読み進められます。前半で蓄積していた何かが
後半一気に溢れだすような快活さは、とてもすがすがしい気分。みんな悩みを抱え
ていながらも、同じ運命を生きる登場人物へのやさしさみたいなものが感じられる。
彼の小説では「ララピポ」にも通じる群像劇。
 
沢木耕太郎 「凍」
沢木耕太郎による、ノンフィックション小説の傑作。登山の魅力に取りつかれ、一途
に山への情熱を燃やして、人生すべてをそこに懸けるという主人公のとんでもない
生命力が滲み出た描写に度肝を抜かれた人間何かひとつのことに一生を捧げる
という決意を持っていたらなんでもできるのではないかという勇気・希望が読後に
湧いてくる名作です。凍傷で指を失い、体がぼろぼろになりながらも、生きることへ
の信念を捨てなければ続けていける。そこに意味があるとかないとかそういうことは
もはやどうでもいい。ただそれを遠くから眺めた時に、すごく輝いている「今」として
見渡せるときがくるのだろう・・・。ノンフィクションというだけあって、描写はすごく
リアルで、生々しいくらい。心情とか含めて、全部実際に起こった話なのだから
やはりすごいとしか言いようがない。登山をしているとか関係なく、なにかに打ち込
みたいと思っているひとは是非読んでみることを勧めます