キャベツ畑

ミサは夢の中で、キャベツ畑にいた。
空はどんよりと曇っていて、墨汁に水を混ぜたような雲が浮かんでいた。

突然、後ろから声をかけられた。振り返ると、おじさんが立っていた。
「あんた、バイトかい。じゃあ手伝って」
そう言って包丁を渡してきた。ミサは何も分からず、包丁を受け取った。
収穫の仕方を口頭で説明され、おじさんはどこかへ行ってしまった。

仕方ないのでミサはキャベツを収穫することにした。
包丁をキャベツの根元に突き刺した。すると根元の切り口から、血が溢れ出てきた。
見ると、今までキャベツだと思っていたのはちょうどキャベツくらいの大きさの「肉玉」だった。
「キャッ!何これ?」
ミサは驚いて飛びのき、包丁を投げ捨てた。手にはまだ肉玉のぶよぶよした感触が残っていた。
服には肉玉の返り血がつき、血なまぐさい匂いが漂っていた。ポケットティッシュで拭くと、血には
粘り気があり、生温かかった。

突然、また後ろから声がして振り返るとおじさんが立っていた。
「よくやってくれた。今日は家で御馳走してやろう」
ミサはトラックに乗せられ、おじさんの家に連れて行かれた。おじさんは独り暮らしのようで、部屋の
中は散らかっていた。壁には斧や、ナタや、ノコギリや、たくさんの名前も知らない物騒な刃物が並ん
でいた。暖炉の上には、トナカイの首から上の剥製が掛けられていた。窓辺には、ヒトの骸骨が飾って
あり、頭のなかには蛾の死骸が入っていた。

おじさんはさっきの肉玉を一口大に切り、油を引いたフライパンの上で焼き始めた。
「肉ばかりじゃなく、野菜も食べんとな」
そう言うと冷蔵庫を開け、中からビニールパックに入った霊長類の手を取り出した。その手は緑色をし
ていて、切っても血は出なかった。そのかわり、デンプンを含んでいるらしく、切り分けたものが包丁
にくっ付いていた。
おじさんはそれを肉玉と一緒に炒めると、皿に盛り付けた。

他に、鍋に入っていたスープをカップに注いだ。そのスープには蛙の目玉が入っていた。
パンをナイフで切り、皿に乗せて出した。ワインをグラスに注ぎ、乾杯した。
「神の恵みに感謝して、いただきます」
ワインを飲んだら、それは血だった。口の中に血なまぐさい匂いが残り、吐き気がした。
パンはやけにネチネチしていて、口に含むとねばっこかった。

肉玉と霊長類の手の炒め物は、口に含んでもゴムのように固く弾力があり、噛めなかった。
ガムのようにずっと噛んでいると吐き気がしてきて、テーブルの上に嘔吐した。

するとおじさんの顔が見る見るうちに曇っていき、イスから立ち上がりすごい剣幕で怒鳴った。

「食べものを粗末にするな!!」

そして壁にかかっていていた斧を手に取ると、ミサの頭めがけて振り下ろした。