エロマンガ島

1980年代、バブルの流れで大量のエロマンガやエロビデオが作られ販売されるようになり、それは
ビジネスになった。世の中の男たちはそれらを大量に買い漁り、見て心を躍らせた。

それとともに、大量のエロマンガやエロビデオが捨てられることが問題になった。
男たちは何も考えずに、性欲の赴くままにエロマンガを買い続けるのだが、それらはどんどん増えてきて
すぐに隠し場所はなくなる。一人暮らしならいいが、親と同居している学生や、妻と同居している会社員
が家にいない間、部屋を掃除されたりしたら大変なことである。

そこでそういう男たちは、定期的にこっそりエロマンガを捨てることになる。
こっそりゴミ出しの袋に紛れ込ませるのだが、それでは見つかる危険がある。だからわざわざ誰もいない
山奥や、人通りの少ないあぜ道や、河原などへ行き、それらを投棄する。

投棄される場所はまるで示し合わせたかのように、男たちは同じ場所に捨てる。
そこで行政は不法投棄禁止の看板を建てるのだが、やはり不法投棄はなくならない。
そういう看板が建つと男たちは捨てる場所を変えるのだが、そこもやはりゴミでいっぱいになり、新しい
看板が建てられる。
不法投棄が悪化すると防犯カメラが設置され、常習犯は罰金や懲役刑にまで処せられることになる。

そこまでエロマンガの不法投棄は社会問題になっているのだ。

それらの不法投棄は陸の上に限ったことではない。
漁師たちは漁に出て仕事に精を出していると、何カ月も女性と会うことができない。
そこでそのはけ口はエロマンガに向けられることになる。妻や子供に別れを告げ、漁に旅立つ男たちを
人々は尊敬するだろう。しかし船の寝泊まりする船室には、大量のエロマンガが隠されているのだ。

それらはおのずと海へ捨てられることになる。ここでも、やはり示し合わせたかのように男たちは同じ
場所に不法投棄する。何しろ、海を愛する漁師が不法投棄をしている事実が表沙汰になったらことである。
だから、人目にはつかない海域に捨てられる。

それらはちりも積もれば山となる式にどんどん増えていった。
海に捨てられたゴミは誰にも見つかることはないと思われていた。

しかしあろうことか、大量のエロマンガは積もり積もって島になったのだ。

最初は漁師たちも驚いていた。厚させいぜい3センチのエロマンガが、何百メートルもある海底から
積もり積もって島を形成することになるとは、考えもしなかった。

いつしかその島は「エロマンガ島」と呼ばれることになった。

テレビや雑誌で紹介され、各地で話題になり、世界から観光客がやってきた。

そして、エロマンガ島では青少年を対象にしたツアーが開かれることになった。
店でエロマンガを買うことが恥ずかしい中学生から、生きる目的を見失っているニートやひきこもりの
若者たちが日本全国からフェリーに乗って、この島へ7泊8日の合宿にやってくるのだ。

合宿生たちはフェリー代と食費と宿泊費を出せば、あとは自由に無料でエロマンガを持ち帰ることが
できた。不法投棄されたエロマンガは雨で濡れてふやけていたが、それが多感な年頃の青少年たちには
ちょうどいいボカシになった。教育委員会も、このツアーは健全だとして認めていた。

島に建てられた博物館では、エロマンガ島が形成されるまでの歴史を知ることができ、公害などの社会
問題について学ぶことができた。専門の講師がやってきて講義を開き、合宿生たちに学ばせた。

すなわち、「ちりも積もれば山となる」という理念についてである。

生きる目的を見失っていた若者たちは、そこで学ぶことで人生観が180度変わり、何事にも努力して
挑戦するという意欲を身に付けた。彼らは将来の日本を担う、この国の星となって活躍した。

エロマンガ島に捨てられたエロマンガは、捨てる人がいて、合宿生が持ち帰ることでリサイクルのシス
テムが成り立っていた。エコであり、この島のシステムは環境保護の面でも大きく取り上げられた。
現代社会の消費中心のシステムを見直し、自然と共生する生き方を人々に問いかけた。