テクノ耳

昨日、ラジオから流れていたテクノミュージックが耳に入ってきて、耳かきで取ろうとしたが取れなかった。
 
どうやら耳の奥まで入り込んだらしく、耳かきが届かない様子である。
 
テクノミュージックは鼓膜を通過すると、脳を侵し始め、もう外科手術でも永遠に摘出することができない深層
まで入り込んでしまい、自分を侵し始めた。
 
それからパソコンを使って色々な曲をダウンロードするとテクノミュージックばかり聴いていた。
 
耳から入ってきたたくさんの曲たちは、次々に脳のスポンジに吸収されていった。
そして快楽中枢を刺激すると、エンドルフィンにまみれた流れるプールを形成し、脳内をヘビーローテーション
し始めた。
 
月が昇り、文明が滅びたので、閉ざされた薄暗い監獄を出て、誘蛾灯を確かめに行った。
 
すると通りを走る車の音が電子音にしか聴こえなかった。低い心臓のエンジン音がビートを作り、ブレーキや
ラクションが加わると、一緒に音楽で遊び始めた。友達になった音が友達を突き放すと、また別の音が加わった。人々の話し声がテキストになり、世界の喜びや悲しみに満ちた怒りのパレードが通りを賑わせた。
 
弱肉強食の地平線が風化により浸食されると、自分は帰って懲役の刑になった。
 
何か食べるものはないかと考えていると、米を洗うことにした。すると無数の米粒が、容器の中で細かく振動し、
ドラムンベースを刻み始めた。驚いていると、冷蔵庫の中の肉が出てきて、まな板の上で踊りだし、そこに野菜
も加わった。生肉のグロテスクなリズムと、野菜の軽快なシャキシャキ音がとても明るく楽しかった。
 
やがてフライパンの上で炎による拷問を受けると、油が飛び散るエレジーになった。
 
とても楽しいテクノパーティだった。こんな音楽を聴いたのは生まれて初めてだと満足な気持ちでいると、額から
脳汁が垂れていた。