MIRROR

鏡の向こうの世界に誰かが立ってこっちを見ている。
 
自分はどこかで出会ったような気がするが、しかしそこにいる自分は思い出せないのだ。
 
静寂の世界に鼓動が再びならないのは、2つ並んだビー玉がシークエンスを釘付けにしているからだった。
 
ただ意識だけがシークエンスの外に存在していて、遡りながら流れている2つの川を見ていた。
 
川を遡ると、自分と世界を繋ぐガラス細工のような壊れやすい何かを思い出した。
 
しかし流れが速すぎるので、一度思い出しても一瞬で砂のように記憶の間をすり抜けて行った。
 
その届きそうで届かないところに鏡の向こうの世界があって、忘れられたもう一人の自分がいた。
 
ずっと思い出せないでいると、止まっていたシークエンスがゆっくりと動き出してもう一人の自分が消えた。
 
自分の存在も消え、鏡の向こうの世界との境界がインクのように滲んで、意識だけが海の中にあった。
 
そこには存在を遮るものなどなく、すべてが鏡のように反射し合っている相対的な世界があった。
 
記憶の万華鏡を眺めていると、鏡が壊れる音が静寂を破り意識を失った。