ノヴェンバー・ステップス
ないのではないだろうか。言わずと知れた武満徹の代表作として、世界で評価されている曲である。
タイトルの由来は、この曲の初演が11月9日だったということや、西洋音階の12音に当てはまらない和音階を
意味しているという説もある。いずれにしても、11という数字はなんとも割り切れないミステリアスな数字である。
和楽器である琵琶と尺八と、西洋楽器であるオーケストラとがまるで対決しているかのように、双方が音の響き
に喚起され、波紋を広げるように反響しあっている。武満は和楽器が「石」であり、オーケストラが「水面」だとし
この着想から当初は「ウォーターリング」というタイトルを想定していたという。
る風をイメージしたらしい。実際、西洋楽器では嫌われる和楽器独特の「障り」を取り入れたことは、クラシック
音楽に邦楽器を導入した最初の作品だといわれ、西洋音楽界に衝撃を与えた。
映画音楽・電子音楽・ポップスなど、幅広い分野にわたって作品を残した武満であるが、そこに一貫して流れて
いる「和」の思想はこの作品で確立され、全世界に知らしめたといっても過言ではないだろう。
照らし合わせても、「日本」という国が消えていくことへの危機感や、西洋文化への反発心がこの作品を生んだ
原動力として働いていたということが容易に想像できる。
武満は数多くの作品を残しているが、東洋的な思想が時代的背景や音楽の変遷において最も顕著に表れてい
るのが「ノヴェンバー・ステップス」であり、この作品が現在においても高く評価されている所以だと思う。