最近聴いた音楽

武満徹 「鳥は星型の庭に降りる 他」
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武満徹の1977年作の「鳥は星型の庭に降りる」は、ぺンタトニックの5音音階を
基本とした、5つの旋法によって作られた弦楽器の音場に、オーボエによって奏で
られる主題が舞い降りるという構造の曲になっています。後期の武満の作風は、
メシアンドビュッシーのような影響下にありながら、西洋の作曲家には到底作曲
できないような神秘的な、捉えどころのない境地にいる。印象主義や、ロマン主義
影響を受けながらも、やはり根底にあるのは、東洋的な思想なのだと思います
その自身の音楽の構造について、彼はしばしば「庭園」という言葉で説明している。
同じく収録されている「精霊の庭」も、12の音階を基に作られた4つの和音による3
つの音形を基本に曲が展開されていく。それはまるで、庭を回遊するように様々に
視点を変えながら、そこに配置された構造物(オブジェ)が見る角度によって色々な
姿に写るようなイメージだ。ここでいう構造物とは、楽器や各音響効果のことである。
「3つの映画音楽」も収録されていて、「訓練と休憩の音楽」はジャズやブルースの
要素を伴った形態がどこかダンディズムだし、「葬送の音楽」はレクイエムの武満
らしい寂寞とした曲想が印象的で、「ワルツ」はお得意の映画音楽ワルツで、北欧
の20世紀初頭の影響を感じる。1981年作の「夢の時」は、タイトル通り夢のように
いくつかのモチーフが立ち現われては、様々なテクスチュアとなり織り込まれては
消えていくという形になっている。この曲はアボリジニの夢とうつつを区別しない思想
から影響され、作曲されたらしい。「ソリチュード・ソノール」は、黛敏郎の「涅槃交響
曲」からインスパイアされ「鐘の響き」をテーマにしている。
武満徹の音楽を聴いていると、特に現代音楽は西洋楽器のオーケストラを用いてい
ながら、西洋の作曲家とは全く異なる響きや手法を持っていて、そこにはやはり
の思想が一貫してあるのだと思います。まるでインクが滲んでは、光と影の淵で
様々に色彩を変えていくように、イメージが立ち現われては消えていきます・・・。
その不思議な魔性とでもいえる魅力を備えた音楽は、西洋の聴衆からは宗教のよう
なカルトな支持を集めているらしいです(笑)
・Krzysztof Penderecki「Complete Cello Concertos」
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ペンデレツキのチェロコンチェルト集。作曲者自身が指揮していることもあって、これ
はすごい迫力と勢いを伴ったダイナミズムに溢れた演奏です序盤からチェロの不
協和音とオーケストラのトーンクラスターに身の毛が逆立ち、得体の知れない不安
感や戸惑いにさらされます。しかしそれがこの作品からしか得られない最大の快感
であり、本当に素晴らしい音楽だと感じる。理論や伝統に縛られた堅苦しいクラシッ
ク音楽について、過去への反省と批判的な態度を持って20世紀初頭に生み出され
たのが「現代音楽」であり、それは同時に、色々な制約から解放されて限りなく自由
な形態で作曲された音楽なのだ。あらかじめ決められた調だとか旋法や、ソノリティ
に対する考え方まですべてを放棄してそこに音楽が生まれる。それはものすごく難し
いことであり、ともすれば音楽に“美”を求めることはできなくなります。そんなわけで
現代音楽には数多くの駄作も存在する。そこから一方的な先入観を作り上げてしま
い、現代音楽は現代の音楽でありながらクラシック音楽にその座を奪われ、ほとん 
ど聴衆からも演奏家からも必要とされない音楽になってしまっている。それは現代
音楽社会が抱える大きな問題なのである。話がそれすぎたが、現代音楽は自由な
音楽なのだから、やはり難しいことは抜きに感覚で感じる音楽なのだと思います。
彼の曲は、ホラー映画「シャイニング」でも使われ、実に見事に映像とマッチしていて
あの映画の狂気が蘇ってきます。この曲をBGMに選んだキューブリックはやはり
天才だと思う。作曲したペンデレツキもまた、現代音楽を代表する天才なのだ。
・Eric Roche「With These Hands」
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今は亡きエリック・ローチェのアルバムです。アコースティック・ギター一本で奏でられ
るオリジナル曲は、シンプルでキャッチ―だけど、パーカッシブな双方を取り入れな
がらもアレンジに無駄がない。その切れ味鋭い演奏は、とても一人で弾いていると
は思えないが、タッチにぬくもりがあるのも特徴で彼の人柄が表れている気がする。
そのメロディセンスや情感溢れる演奏は、マニアックなギターファンだけでなく、万人
に受け入れられる本物のギターミュージックだと思います
オリジナルのほかに、カバーも4曲収められていて、こちらのアレンジも見事です。
スティーヴィー・ワンダーヴァン・ヘイレンなどのロックのスタンダードもいいが、
特に見事だと思ったのはマイルス・デイヴィスの「Blue In Green」でお気に入りにな
りました
彼は惜しくも若くしてこの世を去ったが、その魂は教え子のニュートン・フォークナー
を始め、多くの後輩たちに受け継がれているし、音楽は生き続けるのです。
Pat Metheny Group 「Offramp」
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パット・メセニー・グループによる81年のアルバム。この頃からベーシストが変わり、
パーカッションにナナ・ヴァスコンセロスが加わり、音楽性も多様になり自由な音楽
を展開し始める。これまで一本調子なフュージョンサウンドが主だったのが、この
アルバムでは一歩前へ踏み出たかのような色彩感溢れる音になります
サウンド的にはエレクトロニクスを取り入れてもいるが、アコースティックな音もうまく
生かされていて、ジャンルはジャズにとどまらず、ブラジル音楽、フォーク、フリー・ジ
ャズ、、など実に様々な形態を垣間見ることができる。そしてメセニーによるギター・
シンセが全面に出ていて、その独特な音色は未知の不思議な世界へ連れて行って
くれるのだ。ここで既にメセニーは、シグネイチャーサウンドを手に入れたといってい
いだろう。曲順もこれ以外にあり得ないほどうまく練られている。それまでの経験を
生かし、ミュージシャンとして一歩前に前進しスターダムにのし上がることになる。
これはその契機となった名盤であると言って過言ではないだろう。
・PANTERA「Vulgar Display Of Power」
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パンテラによるメタルの歴史を変えた2作目。これはMDが壊れたんでCDで新たに
買いなおして久しぶりに聴いたのですが、やっぱりすごすぎる
ダイムバック・ダレルの個性的なギター・リフはかっこよすぎるし、バンドの勢いに
ただただ圧倒される。前半の曲もすごい勢いだが、今回聴きなおして後半の流れも
よく練られていて、実にアイデアに溢れたすばらしいアルバムだと再確認しました。