報道と政治家

ある政治家が、総理大臣になった。
「私もやっとスタートラインに立つことができました。これからこの国を変えるために、国民の
生活を第一に考えて、身を粉にして頑張っていきたいと思います」
テレビの就任演説でA総理はそう述べた。
国民の歓声。誰もがこの総理に期待している。これから国が良くなっていくのだ。

ある新聞社。このところの不景気で、すっかり売り上げも落ち込んでいた。
みんな新聞を読まなくなった。最近は暗いニュースばかりで、面白い記事もないし、新聞をとる人も
減ってきていた。
何か面白い記事はないだろうか。編集長は考えながらテレビを観ていた。
「私はこれから~」
ん?今、漢字を読み間違えたぞ。これは面白い記事になりそうだ。

A総理の漢字の読み間違えは、あらゆる方面で話題になった。
新聞社もその記事を書いてから、急に売り上げが伸びた。
「これはいいネタになる。もっと総理に対して批判的な記事を書いて売り上げを伸ばすのだ」

新聞社はいつしか総理の批判ばかりを書くようになり、売り上げは伸びた。
マスコミで批判的な報道がされるようになり、A総理の国民による支持率は急激に低下した。

「漢字が読めない人に国を変えることなんかできないだろう」
「いつまでたっても景気はよくならないし、早く辞任するべきだ」

街頭インタビューでも、国民の批判的な意見が報道されるようになった。

ほどなくしてA総理は辞任した。

A総理に代わって、新たに総理大臣になったのはB総理である。
「このところの不景気、格差社会、雇用問題などに重点を置いて、この国に元気を取り戻すため、
精一杯、頑張っていきますので応援よろしくお願いします」
B総理は就任演説でそう述べた。

あるテレビ局。このところ視聴率も伸び悩んでいる。
何とか視聴率を上げるため、他のテレビ局に対抗しなければならない。
何かいいアイディアはないだろうか?考えながらテレビを見ていた。

すると、新しく総理になったB総理の顔が目に付いた。
「この総理の顔、面白いぞ。どう見てもヤクザかなんかにしか見えない。よくこの顔で総理になれた
もんだな・・・」

それからテレビ局はB総理の顔について、皮肉を交えた報道をし始めた。
「B総理はこの顔で総理になりました。どう見てもヤクザにしか見えません。総理の生い立ちは
どうだったのでしょうか?わがテレビ局が取材しました」

そのテレビ局の視聴率は一気に上がった。B総理の顔については、あらゆる方面で話題になった。
テレビ局はもっと視聴率を上げるため、更に総理について批判的な報道をし始めた。
それとともに、B総理の国民による支持率は急激に低下した。

「ヤクザにこの国を変えることなんかできないだろう」
「いつまでたっても景気はよくならないし、早く辞任するべきだ」

街頭インタビューでも、国民の批判的な意見が報道されるようになった。

ある日、B総理は国会中継でこう述べた。
「このところ、私の顔についてマスコミで色々批判的な報道がされています。それから、私の人格
までも否定するような報道もされるようになりました。しかしそれはマスコミによる作られたイメ
ージであり、私のこの国を良くしたいという信念は真実です」

その国会中継のあと、総理の国民による支持率は低下に歯止めがかかった。

B総理について、批判的な報道をしてきたあるテレビ局の視聴率は徐々に低下していた。
「これではわがテレビ局の報道が嘘であったと思われてしまう。もっとB総理の過去について暴
いて、視聴率を上げるのだ」

そのテレビ局はB総理の過去について、もっと批判的な情報を仕入れて、報道するようになった。

一度は歯止めがかかったB総理の支持率も、更に批判的な報道がされるようになってから、また
低下の一途をたどるようになった。

結局、B総理もこの国を良くすることができないまま、辞任してしまった。