メタボ主婦

ある昼下がり。中年女性が寝転びながらワイドショーを見ていた。
女性の名はシズコ。亭主は会社へ行き、中学生の子ども達は学校へ行っている。

一人で自由に過ごせる昼下がりをのんびり過ごしていた。

ふとテレビの声が耳に入ってきた。
「次は、昨今話題になっている“メタボ”についてのニュースです。研究者たちの間でこれまで、
男性で85センチ以上、女性では90センチ以上と定められていたメタボですが、新たな研究結果
から女性の場合、80センチ以上に変更されることになりました」

シズコは眠気が覚めた。
シズコのウエストは85センチである。ちなみに亭主のウエストは90センチ。これまで自分は
メタボではないと亭主に自慢していい気になっていた。

しかしこれからは自分もメタボの仲間入りである。
メタボの人は内臓脂肪がついているため、生活習慣病にもかかりやすくなるという。
「大変。これから急いでダイエットしなきゃ」

シズコは早速、通販でダイエットマシンを買った。
そしていつもの昼下がり、テレビを見ながらダイエットマシンに乗って自転車をこいだ。
近くのスポーツジムにも通い、毎日汗を流した。買い物に行くときも乗り物は使わず、なるべく歩
くことにした。整体にも通い痩せるために毎日努力した。

シズコの体重は見る見るうちに軽くなり、ウエストは79センチになった。
「やった!これで私もメタボじゃないわ」

早速、夕食のとき、亭主や子供に自慢した。
そして、今夜のメニューのトンカツにがつがつ食らいついた。

ある日、いつものように寝転んでワイドショーを見ていると、メタボのニュースが飛び込んできた。
「昨今話題になっているメタボですが、新たな研究結果から女性では90センチに引き戻される
ことになりました」

シズコは驚いた。
「あんなに努力して痩せたのに、なんで今頃、引き戻されるの?」
ダイエットのために使ったお金も時間も努力も、すべて無駄だったという気分になった。

それからシズコは、また以前のように、食べては寝ることを繰り返した。
体重は見る見るうちに増えていき、ウエストは95センチになった。

もうメタボでもいいと思うようになった。亭主と一緒に“メタボ夫婦”である。